レポート
2025.06.11

江戸時代には“エビ”のヘアスタイルもあった!企画展「お魚楽園(パラダイス)」で楽しむ浮世絵の世界【名古屋】

「鯖を読む」「鯔背(いなせ)」「海老反り」など、身近なことばにもなっている魚介類。実は魚と人々の生活の結びつきが一層強くなったのは、江戸時代からといいます。「三菱UFJ銀行 貨幣・浮世絵ミュージアム」(名古屋市中区)で開催中の企画展「お魚楽園(パラダイス)-いいネタ入りました!」では、そうした江戸時代の海や魚にまつわる江戸文化をテーマにした浮世絵が多数展示されています。

さまざまな浮世絵を通して、粋で鯔背な江戸っ子の様子をのぞき見してきました!
 
※取材のため特別に撮影させていただきました。普段は写真撮影不可です。あらかじめご注意ください

↑「お魚楽園(パラダイス)-いいネタ入りました!」の会場

 
会場内は8つのテーマに分かれていて、舟の上で釣りをする様子などを集めた「御魚探訪」や、日本橋の魚河岸の賑わいを映し出した「売る」。魚にまつわる言葉や髪型を映し出した「魚介諺(ことわざ)」「魚介髪型(ヘア)」など、グルメだけでなく江戸時代のカルチャーも紹介されています。

日本では魚が定番のごちそうだったこともあり、古くから魚介=幸せ・生命力のシンボルとして人々の生活や文化に深く根付いていたといいます。

絵師・歌川広重がとらえた江戸の暮らし

↑歌川広重による作品『六十余州名所図会 若狭 漁船鰈網(かれいあみ)』。海底の網を引き回す「手繰網」で魚を獲る様子。魚の影もあり、網の深さが分かる細かな描写も美しい

 
もともと日本近海は魚の種類が豊富な場所。北からの寒流や南からの暖流の黒潮といった海流の影響で、多様な魚が集まります。そのため全国各地で漁業が盛んになり、投網や地曳網、一本釣りなど魚の特徴に合わせた漁法も発展しました。

↑みんなで力を合わせて地曳網を引く『五十三次名所図会 十 小田原 海岸漁舎』

 
学芸員の鏡味千佳さんは「歌川広重の有名な作品『東海道五十三次』にも、多くのお魚が登場する」といいます。

「魚は自然の恵みであり、古くから人々が生きていくうえで切っても切り離せない関係でした。“母なる海”ともいいますよね。そうした海や魚と江戸の人々の関係性を紹介しながら、魚介とおしゃれ、魚介髪型(ヘア)といった変化球の作品も集めました」

↑『東海道十七 五十三次之内 由井 さつたとうげ くらさは立場』

 
こちらも「東海道五十三次」の1つ。今の静岡県・由比と興津の間にある「薩埵峠(さったとうげ)」が描かれています。薩埵峠は、名峰・富士山を眺められる名所。当時は手前にある茶屋で、名産のサザエやアワビを堪能できたそう。そんな魚介を描いた「魚づくし」シリーズもあります。

↑広重による「魚づくし」シリーズの1つ『鮑・細魚に桃』

 
貝からこぼれ落ちた大きなアワビの身。青々としたサヨリとともに、可憐に咲く桃の花の美しさが際立っています。

まるで舟の上にいるかのよう!投網を投げる瞬間


浮世絵の中でも、ひと際異才を放っていたのが『名所江戸百景 利根川ばらばらまつ』。利根川(現・旧江戸川)で漁をする場面を切り取った作品です。右手には川魚を獲るための投網が広がっています。「えいっ!」と勢いよく投げた瞬間が臨場感たっぷり! ぴちゃっと水面に網が落ちる音も聞こえてきそうです。

新鮮な魚が勢揃い!活気あふれる日本橋の魚河岸


獲った魚を売りに出すのが、日本橋北詰(きたづめ)の東側にある魚河岸。魚市場の聖地で、「一日に千両の落ち所」といわれるほど、賑わっていたそう。

画像の浮世絵は『名所江戸百景 日本橋雪晴』。雪が積もる日本橋の早朝を俯瞰でとらえた浮世絵です。遠くには雪景色が美しい富士山が、少し手前には江戸城がそびえ、手前には活気に満ちた魚河岸の様子が描かれています。

↑『名所江戸百景 日本橋雪晴』の拡大図

 
右下の売り場をよく見ると、活きの良い魚がたくさん並んでいます。その前の通りには天秤棒をかついで「よいしょ!」と大きな魚を運ぶ姿も。

↑『江戸百景餘興(よきょう) 鉄炮洲築地門跡(てっぽうずつきじもんぜき)』。鉄砲洲とは、隅田川河口の西岸にあった湿地帯のこと。江戸時代はスズキ、エビ、ウナギなどが獲れた

 
生活のために魚を獲るだけでなく、遊びとして「釣り」が楽しまれるようになったのも江戸時代から。釣りブームを後押ししたのは、中国から伝わった半透明な釣り糸「天蚕糸(てぐす)」。なんとガの幼虫の分泌物だったとか。画期的なアイテム登場で、江戸っ子たちの釣り熱が高まったのですね!

エビを髪型に!? 魚介ヘアスタイルの展示も

 

↑風景を広重、手前の人物を三代歌川豊国が描いた『雙筆(そうひつ)五十三次 京 大尾 三條大橋之図』。手前の左の美男子は、紫式部の『源氏物語』をパロディーにした『偐紫田舎源氏(にせむらさきいなかげんじ)』の主人公・足利光氏

 
特に面白かったのは「魚介髪型(ヘア)」。なんと、浮世絵の左手前にいる足利光氏(みつうじ)の頭にひげのようなものが! これは「海老茶筅髷(えびちゃせんまげ)」といわれる髪型で、エビの尻尾のように二股に割れているんです。江戸っ子のセンスが独特すぎますね!


というのも、当時の江戸っ子にとって、エビは長寿と祝いのシンボルだったそう。甲冑のような甲羅の立派さや勢いよく跳ね上がるエビの特徴に目を付け、その生命力にあやかりたいと文化の一部に取り入れていました。考えてみると、歌舞伎役者の市川團十郎さんも、現在の名を継ぐ前は市川海老蔵さんでしたね。

ほかにも、歌舞伎の演技である「海老反り」に、色の種類「海老茶」……。現代にも伝わる言葉は、こうした江戸っ子による粋な文化がならわしなんです。

「この魚介髪型を思い立ったときは、いいネタ入った!と思いました」と笑みをこぼす鏡味さん。こうしたユニークな切り口も、貨幣・浮世絵ミュージアムの魅力の1つなんですね!

粋で活きの良い、江戸っ子の“生き様”をのぞいてみよう!


江戸時代の風景や色使い、当時の人々の営み――。1枚の浮世絵にたくさんのストーリーが色濃く描かれていて、終始、奥深い浮世絵の世界に引き込まれていました。


また「烏賊様(いかさま)」「海老で鯛を釣る」など、遊び心あふれる言葉の豆知識にも注目です。粋で活きの良い豊富な浮世絵の“ネタ”を楽しみに、ふらっと立ち寄ってみてはいかがでしょう!

イベント概要

お魚楽園(パラダイス)-いいネタ入りました!
開催期間:2025年5月15日(木) ~ 9月7日(日)
開催場所:三菱UFJ銀行 貨幣・浮世絵ミュージアム(愛知県名古屋市中区錦3丁目21-24 三菱UFJ銀行名古屋ビル 1階)
開館時間:9:00~16:00(入館は15:30まで)
休館日:祝日(7月21日、8月11日)
入場料:無料
公式ホームページ:https://www.bk.mufg.jp/currency_museum/index.html
※浮世絵の展示室内は撮影不可

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